自律的に存在する木架構の表現として
敷地は周囲を八溝山系の山に囲まれた高台にあり、大子町の中心市街地を視認できる場所に位置している。中心市街地での旧計画では浸水対策として鉄骨造にて計画されていたが、2019年10月の台風第19号による被災を受けて新敷地への移転となった。新たな敷地では純木造を採用、大子町周辺に広がる八溝山系のスギやヒノキなどの地域産材を多用する計画としている。また日射負荷低減や風雨による影響を考慮した大きな軒面を持つ大屋根の庁舎として、また内部は将来の組織改編に応えられる可変性と更新性を担保できるよう大きな一室空間として、大子町の自然と呼応する新たな風景の創出を試みている。
具体的な計画としては、建物高さを9m以下に抑え、桁行方向113.7mで水平に伸びる大屋根の下に、製材、集成材、BP材(接着重ね材)の3種の木材による架構を林立させた計画とした。材積900㎥程ある材料を、地産地消の観点から地域産材にて確保することを設計時点から検討して進めた。また流通材の寸法感から逸脱しないように調整を重ね、柱は240ミリ角の杉集成材、梁は240×360ミリのスギBP材、方杖は120×210ミリのスギ製材等を用いることで、一般流通材の寸法(2間モジュール) を念頭に材寸計画を行った。
木造における一般的な筋違で構造壁量を確保すると耐力壁の必要箇所が増え、庁舎としての機能を担保することが難しくなるが、本計画では耐震要素は建物外周に分散させ、建物中央には上部へと延びる方杖材が接合された柱を2間モジュールで並べて構造耐力を補填、壁の無い開放的な空間を実現している。中央に開放的な空間を設えることで、町民利用の多い執務課を集約でき、利用者にとってもわかりやすい平面計画となることを意図している。また方杖材と柱の関係(取り付け角度)は大きく分けて3種類程度と限定することで、プレカット加工時やレーン加工時の単純化や施工時の合理化を図っている。
また大規模建築及び木造建築には防耐火要件がついてまわるが、本計画では壁等の区画(2 時間耐火コア区画) を適用して区画コアを境に各建屋の面積を3000 ㎡以下に抑え、準耐火建築物として「燃え代設計」が適用できる条件整理を行うことで、木の現しを実現させている。加えてスプリンクラーを任意設置することで空間を遮る区画壁を減らし、外部から内部へと、木架構が林立する風景を連続させている。設備要素も隠蔽せずに露出させ、メンテナンスの容易さも担保しながら、木造建築における延焼要因でもある貫通部を低減、それらの設備的なエレメントも空間を形作る要素として統合を目指している。
建築を形作るエレメントの統合を意識することで、結果的に、木架構が自律的に存在する様相の表現がなされたのではないかと考えている。今後は大子町に根付いてきた木に対する思いと感覚に寄り添い継承されていく建築となることを願っている。