営みを受け止めるデザイン
黒い外観は609枚のプレキャスト・コンクリート板によって構成されており、表面をアーキテクチュラル・コンクリートとして、岩手産玄昌石砕石と京都宇治産砕砂、そして黒色顔料を混ぜたコンクリートを流しこんだ後、背面にJIS規格軽量コンクリートを一体として打設している。その硬化した表面を超高圧ウォータージェットによって荒らし、そこに無機高濃度シリカ系の複合コーティング剤によってコートして、耐候性の付加と骨材の落下防止を同時に成立させている。表面を削ることによって微細な陰をつくり、素材色に頼ることのなく、深い黒色を外観にまとわせている。一方で内部のパッサージュ空間は、壁、天井共にプラチナ・シルバーのルーバー材によって仕上げた。ルーバーそのものは非常に単純な仕上げだが、背面下地に塗装されたやや赤を含んだグレー色の効果と、吹き抜けトップライトからの自然光、そして室内照明の色温度の違いによって、パッサージュの各面は複雑な色相をまとう。この材の見付寸法は、壁面も天井も全く同じで、各間隔は基準寸法(17.5mm)を中心に30種のストリンガー(嵌合材)にて割り付けられ、全ての壁面および天井面にて、整然と破綻なく目地を通すことを可能にしている。このようなパッサージュのデザインは、将来の展示の可能性を拡げていくものとして、展示室内だけでなく美術館全体を使った展示計画への備えでもある。
黒い外壁を穿つ開口から漏れる光は、この大阪中之島において美術、芸術との関わりを通して表現される人の活動の形でもあり、その活動の場を指し示す記号でもある。そしてこれらの、きわめて単純な形態に内包される複雑な様相を設計するということを通して、現代で建築を設計するにあたって大切なことは何かを追求していきたいと考えている。(新建築2022年1月号)