「恣意性を排除する」
中軽井沢から北に広がる浅間山麓の別荘地に敷地はある。東南側への傾斜地であることも手伝い、旧軽井沢の湿気の多い地域と違って軽井沢特有の霧深い景色に覆われることは稀であって、敷地周辺のまばらな木々とともに敷地より見える東側遠方の山々が常に視界の大きな部分を占めている。
敷地周辺の別荘群は、安心感とも予定調和とも感じ取れる見慣れたスケール感によって構成されており、別荘地というコンテクストの読み込みとともに、居住区間としてどのように新たな視界を計画出来るのが重要と思えた。
クライアントは東京近郊都市に住まう夫妻で、以前より現敷地近傍に別荘を所有して軽井沢の愉しみを身近なものとして経験していたこともあって、新たに計画する建物への要求は「別荘という非日常」をふまえた「サテライトな住宅」として必要にして十分な機能と、敷地を活かした眺望を設計することであった。 またクライアントは外資系企業の管理職であり、本国よりの来客を頻繁に迎える予定となっていた。この住宅は東京でのオフィシャルな活動を補佐し、プライベートに語り合える場所を提供する役目、いわばゲストハウスの役目も担っている。
建物は木々の中を縫うように等高線に沿って計画している。可能な限り現況の木々を伐採しないで済むように考慮して配置した建物位置は、いわば恣意性が排除され、敷地が生まれ持った形とも言えるであろう。
道路レベルの高さで開けていた視界は、屏風のように折り曲げられた建物によって視界を閉じられ、一旦行き場を失う。エントランスはその視界の端に織り込まれた可動壁の向こうに現れ、内部空間へと人を導く。外部は周囲に溶け込むように黒く、そして開口部は小さく低く計画し、極めて閉鎖的な印象を与えたいと考えた。
対照的に内部は壁・天井とも白く明るく、そして全面開放可能な5枚に引戸によってリビングからデッキへ、そしてそのまま風景の中へと抜けていくような視界を計画している。
建物の中心となるリビング・ダイニング・キッチンは高さ4mの天井高を計画、吹抜上部は全てトップライトとなっている。ゾーニングとしては折れ曲がった部分によってパブリックスペース・プライベートスペースを緩やかに繋ぐことを意図している。