本施設は、東京大学生産技術研究所60号館の改修工事である(前、超音速気流総合実験室)。
既存建物である60号館は、昭和37年に我が国最初の超音速風洞として完成し、超音速気流風洞実験室及び高速内部流体実験室として利用されていた。昭和39年の宇宙航空研究所となって本格的に利用され、超音速風洞は空気力学部門、内部流体実験室は原動機部門として活用された。その後、宇宙科学研究所が平成元年まで管理していたが、変電室の漏水等を理由に機能停止状態に至った。
本計画は、生産技術研究所の第二工学部時代からの研究のクロニクルの整理とアーカイブ事業を継続して行えるようにするため、研究棟の床面積の確保と、生産技術研究所60周年記念館としてのアーカイブ資料館機能を併せ持つ、60号館を整備するものである。今回の1期改修工事の範囲は、研究室機能が主であり、既存建物の複雑な空間を整理しつつ、現代の研究室環境の充実と使いやすい空間の確保に配慮した計画とした。今後の2期改修工事にて、アーカイブ資料館機能が付加されることで60号館は完成となるが、既存建物の構造躯体を有効に活用することで、建設計画全体のCO2削減や環境負荷の低減はもとより、50年という長い時間をかけてなお現代も存続しうる60号館を、時間の経過を建築として表現することで実現したいと考えている。
具体的には、既存の構造躯体は、天井を張るなどして隠蔽するのではなく、躯体に最小限の表面処理だけを行い、積極的に素材の経年変化を表現しうるような計画とした。また、設備配管スペースを既存建物の外観を阻害せずに確保するため、外部PSとして既存建物から離隔して設置する計画とした。そして、内部では、二階を二重床とし、フリーアクセスフロアとするだけでなく、配管引き込みスペースや、床下空調のチャンバーとして、設備的な空間にインテグレートしている。