都市環境建築を目指して
発展が目覚ましい東京高輪エリアにおける音楽ホールやミュージアム、オフィスなどが入る複合ビルの計画である。計画地は旧東海道である国道15号線と広大な鉄道敷に面し、かつては海辺であり、心地よい風が流れていた場所である。しかし、時代とともに海は埋め立てられ、高層ビルが建ち並ぶ都市の風景へと大きく変容を遂げており、風を止めるビル群は都市のヒートアイランドを加速している。かつて海辺だった時代の土地の記憶を後世に継承するとともに、海から風を街に送り、都市換気によってヒートアイランドを抑制し、環境機能を纏う施設の実現を目指した。
地下2階、地上15階となる建物はビル風の影響を考慮して、敷地を最大限利用した低層部と極力最小限の大きさとなる高層部にて計画している。高層部は周辺地域との関係や風解析によって卓越風の流れをよみ、海からの風を都市に引き込み都市換気を促す北側配置とした。これは計画地周辺の新たに計画されている建物との離隔を取り、見合いの状態を避ける計画にもなっている。
本建物は事務所、劇場、診療所、飲食店などの複合用途の超高層ビルでありながらも、各用途に合わせた内部空間が外部の形態を成している。内部空間においては上部を意識する流れのある空間をデザインし、東西をつなぐピロティ空間に生まれる新たな人の流れを上部へと促す構成としている。
また、複合用途を上部へと繋ぐもうひとつの要素として、本計画には地上部の緑から階段状に連続した屋上庭園「空テラス」を計画している。空へとつながる立体的なランドスケープにより、内部空間に風と緑を取り込みながらも見上げる誰もが恩恵を享受できる「都市の庭」を創出し、高層ビルに見られる単一的な様相ではないファサードのデザインを目指している。「空テラス」は風解析により風を往なし、都市換気を低減させない形状として決定し、穏やかになった風を室内に取り入れる計画とし、高層ビルにおける自然換気を促すことを目指した。
国道15号線とJR線に挟まれ、東側にはJR線に沿って新たな賑わいの場となる高輪ゲートウェイシティが拡がる都市の中州に位置している本計画において、絶えず変化していく将来の都市の風景や周辺環境の状況を読み、連続する緑、空、風を取り込みながら賑わいを創出することこそがこの街と社会に寄与できる建築の在り方と考えた。そこでの活動が人をつなぎ、地域をつなぎ、社会をつなぐことでまちの価値が上がり、自然環境を統合することで、都市に貢献する建築を目指している。