包の家

建物の大きさに関わらず、建築とは構想力によって成り立つものと考えている。大きな建築と小さな住宅を全く同じように考えることができるのは、その計画の根本にある構想によって、デザインされた空間が建物のスケールを超えてでも成立するからであろう。そのような意味においてはこの住宅も同様で、大きな公共建築に比すれば使用する人の数に違いはあれども、都市と人間の狭間に位置する建築として、いわば公共性の一部を担っている。
建物は南北方向と東西方向の道路が交差する角地に建つ。建物は周囲に広がる住宅地からただ閉じることを選ぶのではなく、敷地形状を活かして多方向に相対する外壁面によって多面体を計画し、その各々の外壁面から視界を得る。その外形に恣意性はなく、いわば都市が作り出した形態ともいえる。
内部は1階にエントランスと倉庫、2階に生活空間を設けたシンプルな構成として、2階に比べ1階を小さく作ることで掘削による施工の手間を軽減している。構造計画としては、1階320㎜厚、2階240㎜厚の8枚のRC壁柱にて、90㎜厚の薄い外壁と屋根を膜のように一体化させることで、狭小地の中で最大限の面積と気積を確保している。その内部空間は、建物中央にリビングスペースを4.2mの正方形で計画し、その周囲直近に生活要素の全てを配置することで、一人住まいであるクライアントの生活の全てが、すぐに手の届くところに配されている。環境計画では外壁および屋根に50㎜の吹付断熱材を施し、場所により50㎜~200㎜の懐を設けた内断熱構法としている。上層からは自然光が天井の稜線沿いに伸び、日中では照明が不要な、柔らかい光に包まれた空間を創出させている。また全館調湿・換気ユニットを導入し、天井からの吹き出しと床下での吸い込みによって空気を循環させることで、常に快適で新鮮な空気に包まれる計画としている。これらの環境計画では設備等の必要な要素を可能な限り意匠計画に統合することで抽象度を高めている。
人が住まうという行為、そしてそこに流れこむ光や空気という環境的要素を、構造や設備等の建築構成で包み込んだ上で意匠計画に統合し、かつ快適性や環境性能を最大化する計画として、この住宅を「包(つつむ)の家」と名付けている。

設計
建築
株式会社 遠藤克彦建築研究所
構造
株式会社 佐藤淳構造設計事務所
設備
有限会社 コモド設備計画
照明
TILe株式会社
施工
株式会社TH-1
主要用途
戸建住宅
敷地面積
86.93㎡
建築面積
59.30㎡
延床面積
110.79㎡
階数
地上2階
構造
RC造
竣工年月
2023年9月
設計担当
遠藤克彦/樋口永/九鬼弘明