新たなステージでできること
鋸南町都市交流施設・道の駅保田小学校に隣接する敷地の廃園した幼稚園(旧鋸南幼稚園)を改修し、道の駅の一部として付加するプロジェクトである。既存施設には年間100万人を超える観光客が訪れ賑わいを見せているが、本施設では更なる展開として、観光客だけでなく地域の人びとが積極的に施設に関わる仕組みを建築化できないかと考えた。
旧鋸南幼稚園は、既存不適格調書を提出して改修工事を行なった。改修による新旧の対比を表すというより、感覚的な表現ではあるが、もともとあった旋律に合う和音をみつけるような作業だった。近隣住民がアクセスしやすいように屋外化した“通り土間” を設け、屋根形状や特徴的なドーマ窓を残している。
春に周辺の河津桜や園庭の桜(既存)がもたらすにぎわいを想い、外装は桜色に仕上げた。室内の仕上げは既存の躯体状態のかたちをそのまま拾うように仕上げている。
園庭には、隣接する保田小学校と結ばれる「わっか」と呼ぶ屋外回遊路を増築し、風景に溶け込む軽やかな木造と鉄骨造のハイブリッドで構成させた。また、折半屋根やFRPグレーチング、ブーゲンビリアの植栽などで小学校との連続性を意識している。敷地は南北に傾斜しており、園舎に近づくにつれて床レベルが持ち上がり、頭上は3パーセントの屋根勾配により低くなり、徐々に幼稚園のスケールへと近づいていく。
歩廊の床と屋根を繋ぐ柱群はあたかも霜柱のような光景を呈している。わっかの形状は人びとに一体感を与える。その場での過ごし方や使い方を自由に想像し、実践させる余白が、この場所には必要だと考えた。
建築と町の見守り方
この町のよさを観光客に知ってもらう手段を町民目線で考えていくことで、鋸南町らしい道の駅のあり方が生まれるのではないか、と考えた。開業に向け、住民主体の「鋸南みまもり隊」という団体の立ち上げも行なわれた。今後は、開業後の観光客と住民の繋ぎ役としての機能をどう確立していくかを検討していき、設計者としてゆるく長く関わっていければと考えている。
(遠藤克彦、小林佐絵子+塩崎太伸/アトリエコ)