本プロポーザルは2010年12月〜2011年1月にかけてプロポーザルコンペティションとして行われた。
群馬県の県庁所在地である前橋市は、全国の県庁所在地として唯一、公立美術館を持たないまちである。また、低密度な市街地拡散のため車依存率が高く、近年では中心市街地商店街の衰退が著しく、まちの歩行者数も激減している。
このような状況を踏まえた上で、市民の高齢化や人口減少への対応、良好な自然環境の継承などを考慮し、既存ストックを有効活用しつつ様々な都市機能を集積させ、コンパクトなまちづくりを行うためのまちの拠点となる施設整備、アートとまちをつなぐネットワークを構築し、市民が主体的に参画し未来への創造性を育む文化活動を支援する場としての美術館、この2つの機能整備が求められた。
こうした背景から、市街地中心部の既存施設のコンバージョンによる新しいタイプの美術館を建設することとなった。
本計画では、既存施設である旧ウォーク館の地下1階〜2階を改修し、限られた面積の中で美術館機能である展示施設や収蔵庫、市民や来館者へ開放されたまちの拠点施設としての機能を整備する。建物の1階は、隣接する前橋プラザ元気21のエントランスホールと相互に保管し合える機能配置計画が求められた。
私たちはこの要求に対し、まちなか全体を「パブリックアート・スペース」として位置付け、市民が日常生活の中でアートを体験できる計画とした。
「パブリックアート・スペース」の拠点となる建物機能は、中央へ配置した展示・収蔵ゾーンを包み込むように市民活動の場を多く計画し、市民コミュニティの場を創出した。計画された1階のエントランスギャラリー(多目的ホール)は、フレキシブルであるのと同時に展示機能をもって計画し、「市民交流のハブ」として多くの催事に対応できる計画となっている。
市民交流のハブを囲い、いつでも利用できるカフェレストランやショップ、町の情報コーナー等で構成された「コモンチューブ」は、日常的な市民の気軽に表現できる場として使われて行くと考えた。
コモンチューブの間仕切壁としてたくさん設けられた回転扉が町へ開くことにより、館内の活動が前橋プラザ元気21と一体となり、町の通りや商店街、まちなか全体に連続性を形成し、町全体が多くの人で賑わう建物を計画した。