高知県本山町役場新庁舎

空間を拡張に導く「ストラクチャーとエレメント」

本山町は人口3300人弱、高知県の北部中央に位置している。四国山地の中央、吉野川上流域にあたり、町土の約90%が山林に覆われている自然豊かな山里である。敷地は町を東西に貫く国道439号から少し奥まった、町の主要な公共施設が集まるエリアにあり、東側には町立病院が隣接している。北側に流れる吉野川には、高知県の特徴的な風景をつくる沈下橋がかかっている。

新しい庁舎はこの山里の自然環境を最大限に享受すると共に、この風景の一部となるように、北側の川や山々の風景へ抜ける通り道のようなテラス、及び、周りの環境や建築スケールに沿ったエントランス前のひろば(駐車場など)をつくり出す配置とした。

近年、限られた規模/機能の中で、ビルディングタイプからくる制約や構造、建築的言語にしばられない環境をつくれないかと考えてきた。その思考のもと、庁舎建築にも携わってきたが、ワークショップ等からの意見では、利用者が庁舎を訪れた際に居場所がないなどの意見を耳にすることが多く、計画的な傾向としては、住民が普段から利用可能な充実した「共用エリア」を求められることが多くなっている。一方、発注側からは、事務所建築として「執務エリア」をしっかりと確保してほしいという要望も強く、地方自治体での計画においては圧倒的に後者を求められるケースが多い。この二つを両立させる空間をデザインしていく上で、本建物では「ストラクチャーとエレメント」というキーワードを基に、各々の空間を一義的に分けた建築とするのでなく、建築要素の操作によって両空間の関係を曖昧にさせることで、その領域拡張を試みている。
7.5m×4スパンの正方形グリッドモジュールを採用した耐震壁付RCラーメン構造(ストラクチャー)のコンパクトな3層ヴォリュームの建物には、立面的な層を構成する深いスラブ(ストラクチャー)の間にファサードエレメントとして嶺北産杉材(地域産材)スクリーンをまとわせて、最上階には三角形の抜けを持つ木造の大きな勾配屋根を架けている。エントランス周りのコーナー柱のない広々とした屋根下空間やこれを支える三角形の方杖梁は、前述の「ストラクチャーとエレメント」と統合されて、周囲の風景と繋がる。コーナー柱を取り払うことによりグリッドモジュールの閉塞感を開放し、車寄せや風除室、屋外の居場所を創出している。照明や空調機器、ラックや配管ダクトなどの設備要素もグリッドモジュールや木屋根のフレームに則った規則的なレイアウトとし、ストラクチャーに付随した設えとした。

また、内部の環境を構成する執務エリアや吹抜、諸室やコーナー、テラス、防煙垂壁などの建物をカタチづくるすべてのエレメントを等価なものとして捉え直し、これらエレメントの輪郭の可視化を行い、階という概念を超えて立体的に組み合わせている。均質でブルータルなグリッドモジュールの柱・梁で構成されたストラクチャーや普遍的な設備要素とエレメントを対比させることにより、ヴォリュームのズレや視線の抜け、異素材の取合いや色彩の差異をつくり、多様な曖昧さによる空間の拡張を試みている。

「ストラクチャーとエレメント」、この関係の整理を丁寧に行った結果として、庁舎機能に支配されることのない部分と全体とがシームレスにつながる大きなワンルームのような、全体性のある庁舎建築が実現できたのではないかと思う。
特徴的な木屋根に覆われ、周囲の自然を取込む開放的な居場所として、本山町ならではの体験や活動、いとなみに寄り添い、まちの文脈の一部として親しまれ、受け継がれていく庁舎となることを願っている。

設計
建築
株式会社遠藤克彦建築研究所
構造
株式会社佐藤淳構造設計事務所
設備
有限会社 EOS plus
MOCHIDA建築設備設計事務所
主要用途
庁舎
敷地面積
約3,745㎡
建築面積
約1,230㎡(倉庫/機械室棟,車庫棟含む)
延床面積
約2,820㎡(倉庫/機械室棟,車庫棟含む)
階数
地上3階
構造
鉄筋コンクリート造/一部木造(屋根)
竣工年月
2022年12月竣工
設計担当
遠藤克彦/木村史聴/畑崎萌笑/石村翔一